ハヤカワ文庫が好きなだけ

読み終えたハヤカワ文庫の本を綴っているだけ。

ストーンサークルの殺人

 M・W・クレイヴンの「ストーンサークルの殺人」を読みました。

 

 あらすじ

英国カンブリア州に点在するストーンサークルで次々と焼死体が発見された。犯人は死体を損壊しており、三番目の被害者にはなぜか停職中の国家犯罪対策庁の警官ワシントン・ポーの名前と「5」と思しき字が刻み付けられていた。身に覚えのないポーは処分を解かれ、捜査に加わることに。しかし新たに発見された死体はさらなる謎を生み、事件は思いがけない展開へ・・・。 本著背表紙より

 

 感  想

 いや~面白かったですね!不可解な事件が次々に起こっていく様と、トラブルメーカー的なポーのなりふりがマッチして、半ば強引に捜査を行っていく様子がヒリヒリするし、誰が犯人なのか?何のために?近づいているようでなかなか近づけていない様が伝わってきて一気に読み終えました。

 なによりも登場人物の中でも同じ堅物のティリーの存在。明言はされていないですが、ADHDとか発達障害と思われる天才分析官。このキャラの存在がよりこの作品に魅力を感じさせることは確かだと思う。人と関わり、事件と関わることでティリーの本来の能力が徐々に覚醒していくところ垣間見ることができるのも、この作品が面白いと思わせる点だと思いますね~。

 ラストもよかった。どんでん返しとまでは言わないがそれに近い体験ができます。良質なミステリを読みたい方は是非!

 

 

 

 

深夜プラス1 【新訳版】

 ギャビン・ライアル著の「深夜プラス1 新訳版」を読みました。

 

 あらすじ

腕利きのドライバーのケインが受けた仕事は、ごくシンプルな依頼だった。大西洋岸からフランスとスイスを車で横断し、一人の男をリヒテンシュタインまで送り届けるのだ。だが行く手には、男を追うフランス警察、そして謎の敵が放った名うてのガンマンたちが立ちはだかる。次々と迫る困難を切り抜けて、タイムリミットまでに目的地に到達できるか?プロフェッショナルたちの意地と矜持を描いた名作冒険小説が最新訳で登場。 本著背表紙より。

 

 感  想

 この本を買ったときの帯が、メタルギアソリッドでお馴染みの小島秀夫監督の帯だったので思わず手に取って読んでみました。とはいっても、メタルギアソリッドは全くやったことがないのだけれど・・・。

 約400ページの物語は読み易くて、あっという間に読み終えてしまったけれど、もっとこう・・・ドキドキ感というか、追われている逃亡劇なのだから危機に瀕している感じが正直ほしかったかなぁ~と思ってしまうんですよね。仕事をこなすケインとハーヴィーは確かにプロなんだろうけど、それにしたって落ち着き払っているというか、終始余裕にしか思えないその言動が危機感をあまり感じさせなかったのが惜しいかなと。終盤になって、黒幕が出てくるわけだけど、それまでのドンパチやどうやって目的地に行くのか?が気になってしまって、黒幕が誰?ということは頭からすっぽり抜け落ちてしまい、黒幕出てきたときには「そういや、そんな話だっけ?」と思ってしまった程。

 それにしても、逃げたいはずの張本人のマガンハルトがほんとふてぶてしいというか、なんというか。もっと危機感感じとけよ!ってすごく思った。金持ちの心境はわからないものね・・・。

 

 

 

 

ハーバードの人生が変わる東洋哲学

 マイケル・ピュエット&クリスティーン・グロス=ローの共著『ハーバードの人生が変わる東洋哲学』を読みました。

 

 あらすじ

「この講義が終わるまでに、きみの人生は必ず変わる」そんな約束から始まる東洋思想の講座が、ハーバードで絶大な人気を誇るのはなぜか?「”ありのままの自分”なんてどこにもいない」「”ポジティブ”がよいとは限らない」「強くなるには、徹底的に弱くなれ」カレッジ教授賞を受賞した有名教授が語る孔子荘子の真のメッセージが、悩めるエリート達の目を輝かせる。 本著背表紙より。

 

 感  想

 ん~結局のところ、人生はシンプルだし、今の自分はあらゆる物事の連続性や関連性に属している。好転させることも悪化させることも可能。それは自分が自分でデザインして、構築すること。関連がなさそうなことも関係してくる。だから、日々の生活をおろそかにしない・・・。私が学んだことはこんなところだろうか。解釈が間違っているかもしれないが、ご愛敬ということで。

 読んでいて、ダイエットに大切なことに似ているな~と感じちゃったんですね。痩せるには食を見直す。食べているものが自分を作り上げているのだから、それをまず見たうえで、運動なり食生活の改善なり、日々のちょっとしてしまう間食について見直す。あらゆる食や行動が君の体を作っているのだから・・・。って感じ?結局はシンプルで、人生だって思想だって自分でがんじがらめにしているだけであって、良くしようとするのであれば、相手を慮り、悪い出来事はそれとして受け止めつつ、しっかり対策して次にはそうならないように繋いでいく。

 結局さ、シンプルこそ最高なんですよ。って私は思いたい。違ってるかな~。

 あとさ、ハーバードで人気=信じられるもの。ってのもどうなんだろうね。

 

 

 

 

楽園とは探偵の不在なり

 斜線堂有紀さんの「楽園とは探偵の不在なり」を読みました。

 

 あらすじ

2人以上殺した者は”天使”によって即座に地獄に引き摺り込まれるようになった世界。過去の悲惨な出来事により失意に沈む探偵の青岸焦は、「天国が存在するか知りたくないか」という大富豪・常木王凱に誘われ、天使が集まる常世島を訪れる。そこで青岸を待っていたのは、起きるはずのない連続殺人事件だった。犯人はなぜ、どのように地獄に堕ちずに殺人を続けているのか。 本著背表紙より。

 

 感  想

 兎にも角にも天使システムが効いていると思うんですよ。この本で描写されている天使って、私たちが想像するような赤ちゃんに羽が生えているような天使ではなくて、もっとなんていうか・・・ポケ〇ンでいうオン〇ーンみたいな、長くて細ーい蝙蝠?みたいな感じの描写をされているんですね。天使じゃやないやん。地獄の使いじゃない。みたいにしか思えないんですけど、こいつらがいることにより、二人以上殺した瞬間に地獄行になるので、ミステリとしての連続殺人が起きないはずなのに、起きてしまう。というミステリが類を見ない作品で面白かったですね。

 登場人物を胡散臭そうな奴らばかりで覚えやすくて「こいつ死にそう~。」「こいつなんかやってたんだろうな~」というのを敢えて見せているようにも感じて、展開を読めるようにさせている感じが個人的にはしました。それでも犯人は誰なんだろうな~と思いましたし、伏線も張られていてそれには気が付きませんでしたが、ミステリしているんだなぁという感じ。ただ、超本格的なミステリというよりラノベ感覚で読める読み易さが人によっては「これはミステリとはいわん!」みたいになるのかもしれないですが、私は面白かったです!

 

 

 

 

逆転裁判 時間旅行者の逆転

 円居 挽さんの『逆転裁判 時間旅行者の逆転』を読みました。

 

 あらすじ

2016年10月、新米弁護士・成歩堂龍一のもとに助手の真宵が依頼人ー尾根紡優子を連れてくる。彼女は2001年に起きた事件から逃れるため、タイムトラベルをしたと主張する。やがて明らかになる、優子が被告とされた15年前の密室殺人事件。25年間無敗の検事・狩魔豪と敏腕弁護士・御剣信が激突したその裁判は、被告逃亡のため判決が凍結されていた。時空を超え、成歩堂が手にする真実とは?

本著 背表紙より

 

 感  想

 ん~これは、原作のゲームをやったことが無い人が読んだらどんな心証を持つのだろうか・・・。私は原作である逆転裁判1~3まではプレイ済みで、ここに出てくるキャラクターについてはある程度知っている状態でこの本を読みました。正直、原作未プレイでこの本を読んでもそこまで面白くないのでは・・・と感じてしました。

 というのも、逆転裁判の魅力って過剰な演出や個性的すぎるキャラクターにあるのであって、それが文字列に現れるだけでは魅力が半減してしまうと思うんです。少なくとも、読んだ私はそう感じてしまいました。有名な「異議あり!」というセリフすら、ゲーム内でズバッと表示されるから面白く、迫力があるのであって、文字列だけで見ても正直ピンとこないんですよね・・・。そこは、想像で補間しましたが、プレイしたことが無い人は補間しようがないと思うので気になるところ。

 ミステリ部分も相変わらずぶっ飛んでいて、タイムマシンが存在する時間旅行系ミステリ。そんな系統が存在するのかどうなのかはしりませんが、事件は時を超えて人も一緒に越えて展開されます。ただ、そこまで時間に付した事件ではないので、多少の混乱はあるものの、それは時間とはそこまで関係なので読めます。まぁ、、私はミステリヲタではないので、このミステリがどれだけの評価がされるのかよくわかりませんが、エンタメよりって印象を感じました。

 なにはともあれ、私の好きな狩魔冥が2歳で登場したことが一番の驚きかつ収穫だったのでそれだけでOKです。個人的に。

 

 

 

 

人間たちの話

柞刈湯葉さんの『人間たちの話』を読みました。

 

あらすじ

 

どんな時代でも、惑星でも、世界線でも、最もSF的な動物は人間であるのかもしれない・・・。火星の新生命を調査する人間の科学者が出会った、もうひとつの新しい命との交流を描く表題作。太陽系外縁部での人間の店主が営業する”消化管はあるやつは全員客”の繁盛記「宇宙ラーメン重油味」。人間が人間をハッピーに管理する進化型ディストピアの悲喜劇「たのしい超監視社会」、ほか全6篇収録。 本著背表紙より

 

感  想

 

 著者初の短編集らしいけれど、他の作品は私は読んだことがなく、今回が初めての作品となります。なにより解説が面白と感じたのは本著が初めて。誰が読んでいるかわからないし、どのような時代に読まれているかも分からないことを前提に、この本は焚書になるような本ではないのだ~と謳っている部分なんかは、笑ってしまったほど。そもそも作者本人が解説しているところが面白い。ちなみに、本著の表紙はあらゐけいいちさんが手がけているのだが、そのイラストがかわいらしくて好きだし、作中に出てくる主人公?達を描いているので、見てから読むとキャラが想像しやすくて読み易い。以下、各短編の簡単な感想を。

 

・冬の時代

 氷河期に逆戻りした?未来の日本のディストピア小説。狩猟武器として使われている「電ポン」なるのものの音が間抜けそうなのが好き。

・たのしい超監視社会

 ジョージ・オーウェルの1984年を皮肉った、相互監視はゲームとして楽しいよね?というアンチ?小説。監視することでポイントが加算され、それが機能している様は現代のSNSによる任意監視を想像させる。

・人間たちの話

 理系の話題が一番強め。でも、これを取り巻く人間模様の方が気になってしまった作品。主人公と甥の関係。親子って?生物って?この主人公の冷徹さは一種のサイコパスかも。

・宇宙ラーメン重油

 コメディ枠。宇宙のあらゆる生命に対応できるラーメン屋の物語。SF好きな人の受けは良いらしい。

・記念日

 ある日自宅に大きな岩がありましたとさ。おしまい。そんな話。読んでいてカフカの「変身」を思い浮かんだのは私だけでしょうか?

・No Reaction

 想像されてきた透明人間とは異なり、あらゆる物や人に干渉できない透明人間は非常に都合が悪い。という物語。読んでいて「あぁ~なるほどね。透明人間にも苦労があるのだなぁ」と感慨深くなってしまった。細かい点での突っ込みはあるかもしれないけれど、そんなのいいじゃない。

 

 ということで、面白かったのです。

 

 

 

ハーモニー

 伊藤計劃さん著の『ハーモニー』を読みました。

 

 あらすじ

21世紀後半、〈大災禍〉と呼ばれる世界的な混乱を経て、人類は大規模な福祉厚生社会を築きあげていた。医療分子の発達で病気がほぼ放逐され、見せかけの優しさや倫理が横溢する”ユートピア”。そんな社会に倦んだ3人の少女は餓死することを選択したーそれから13年。死ねなかった少女・霧慧トァンは、世界を襲う大混乱の陰に、ただひとり死んだはずの少女の影をみるー。 背表紙より

 

 感  想

 伊藤計劃さんの著者の中で、本作は私が初めて読んだ作品になるのですが面白かったです。私は理系的な用語が出てきてしまうとさっぱりで、苦手意識が強いのですが、多少の理系的?要素はあるにしろ(SF小説なのだからあって然るべきかもしれませんが)、とても読み易くグングン引き込まれる展開に一気に読み切ってしまいました。『虐殺器官』を読んでいると、ユートピアとは対極にある物語のようなので、より一層楽しむことができるようなので、読む順番を間違えてしまったかもしれませんが、今更どうすることもできないので、折を見て『虐殺器官』は読んでみたいと思います。

 タイトルが『ハーモニー』となっている割には人は死ぬし、ユートピアな世界を謳っている割にはそこはかとなく流れる不穏感がまとわりついていて、なんと言えばいいのか、真っ白な部屋の中から急に赤い血が少しずつ地面から這い出てきて、うっすらと覆いつくすようなイメージ。分かりにくいと思いますが、うまく言語化できないですね。

 ただ一人死んでしまった少女「ミァハ」のセリフが印象的で、本からの引用であったり知識をトァンや我々読者に伝えてくれるのですが、それが何とも含蓄を含んだものばかりで、一度聞いただけではピンとこないけど、時間が経つと「あぁ・・・そういうことか」みたいなものばかりで、すごくキャラ立ちしていました。そういう意味では、主人公の「トァン」も大人になってから相当無茶苦茶ですし、カッコいいといえばそれまでですが、子供時代の描かれ方からは想像できない成長っぷりでそれはそれで楽しかったです。

 SF苦手な方でも読み易いので、SF苦手な方にお勧めです。